美容整形について
美容整形手術後の抗生剤は絶対に飲まないといけないのか?
二重まぶた手術などの目元の手術や鼻の手術などを希望される患者様のカウンセリングをしていると、時々、
「授乳中で、手術後の抗生剤を飲みたくないので、抗生剤なしにしたいのですが、それが原因で感染するとか問題が起こることはありますか?」
「過去に抗生剤で薬疹や粘膜浮腫などのアレルギーがでたことがあるのですが、手術後の抗生剤はどうしたらいいですか?」
「抗生剤を飲むとお腹の調子が悪くなって下痢をするのですが、どうしたらいいですか?」
「抗生剤を飲むと胃が悪くなるのですが、どうしたらいいですか?」
などのご質問をいただくことがあります。
まず結論からお話しすると、手術後の抗生剤の投与には重要性がないので、飲めない事情がある人、飲みたくない人は、無理して飲む必要はありません。
授乳中で、なるべく授乳をやめたくない場合は、抗生剤を飲まなくて大丈夫です。
過去に抗生剤で薬疹や粘膜浮腫などのアレルギー症状がでたことがある人は、抗生剤の種類を替えて処方することができますが※、何の薬でアレルギーが出たかわからない人や、薬を替えても抗生剤を飲みたくない人は、無理して飲まなくても大丈夫です。
(※高須クリニックでは、術後の抗生剤に、フロモックスなどのセフェム系抗生剤、アモキシシリン、アモペニキシンなどのペニシリン系抗生剤を投与することが多いですが、これらの薬でアレルギーがでたことがある人は、テトラサイクリン系のミノマイシン、ミノトーワなどに替えることがあります)
抗生剤を飲むと胃が悪くなったり、お腹の調子が悪くなる人も、無理して飲まなくても大丈夫です。
高須クリニックでは、昔から、手術後に抗生剤(抗生物質)の内服薬(飲み薬)を処方しています。
二重まぶた埋没法、切開法、目頭切開などの目元の手術、シリコンプロテーゼ、小鼻縮小などの鼻の手術、顎のシリコンプロテーゼ、フェイスリフト、豊胸手術など、ほとんどの手術で術後に3~5日間程度抗生剤を処方しています。
手術中、手術後に抗生剤を投与するのは、「術中感染、術後感染の予防投与」といい、術後に創部に感染症が起こらないようにするためのものとされ、日本では昔から様々な手術で投与されてきました。
外科、心臓外科、整形外科、形成外科、耳鼻科などの科でも、手術後に抗生剤の点滴を何日間もしたり、内服薬の投与もすることが多いです。
昔からこれだけ色々な科で、手術後にたくさんの抗生剤が投与されていると、
「手術後の感染症を予防するための抗生剤投与は重要なことなんだなあ」
と思う人が多いと思いますが、実際には、美容外科や形成外科の手術に関して、「手術後に抗生剤を投与すると感染症が予防できる」というエビデンスはありません。
要するに、「手術後に抗生剤を投与すると、手術後に抗生剤を投与しなかった場合に比べて、感染症の発生率に有意差があった」という明らかなデータはないということです。
では何故、日本では昔からこんなにもたくさん手術後に抗生剤が投与されていたかというと、それは健康保険の仕組みと、病院と製薬会社のしがらみによるからです。
健康保険で診察、治療する場合、一部の例外を除くと、治療をすればするだけ保険点数は加算され、病院の収益になります。
患者さんが軽い風邪で来院されても、解熱剤、咳止め、去痰剤、抗生剤などの薬をたくさん処方することによって利益をあげます。
本来、ウィルス性の風邪に抗生剤は無効なのですが、「細菌の二次感染の予防のための予防投与」という建前で処方します。
手術をした後も、「術後感染の予防」という建前で、抗生剤の点滴や内服薬の投与を長期間行い、保険点数を増やし、利益をあげます。
しかし、必要のない薬であっても、医学的知識の乏しい患者様にとっては、どの薬が必要でどの薬が必要でないなんてことはわからないし、医者が必要と言えば必要なんだと思ってしまいます。
現在、世界では、術後に抗生剤を投与することによって感染症を予防できるというエビデンスがないことから、「抗生剤を投与する場合は手術から24時間以内が望ましい」という指針がメジャーであり、整形外科の人工関節の手術や心臓外科の手術などの感染ハイリスクの手術でのみ24時間以内までに抗生剤を投与し、それ以降は投与しないのが主流です。
保険診療で、医者が患者様に抗生剤を必要以上にたくさん処方しても、患者様は医学の知識が乏しいため、何も文句は言いません。
中には、「たくさん薬を出してくれた。医者に大切にされてるのでありがたい」と喜んでしまう患者様もいらっしゃいます。
むしろ、軽い風邪で受診した患者様に対して医者が、「解熱剤も抗生剤も必要ないのでお出ししません」「水分をしっかり摂ってお家で安静にしてるだけで治りますよ」と言って、診察だけして何も薬を出さないと、「あそこの医者は何も薬を出してくれなかった!」と怒ってしまう患者様もいらっしゃいます。
しかし、抗生剤には様々なリスク、副作用があります。
どんな抗生剤でも、体質によっては必ずアレルギーがでる可能性があり、全身に薬疹がでたり、口の中や気道の粘膜が腫れて、呼吸困難になったり、アナフィラキシーショックで死亡する可能性もあります。
抗生剤の内服をすることにより、胃の粘膜が荒れて、胃炎になることもあります。
抗生剤によって、腸の中の腸内細菌が死んでしまい、悪玉菌が増えることにより、お腹の調子が悪くなって、下痢をしたり、便秘になることがあります。
抗生剤によって、皮膚の常在菌が死んでしまい、代わりに他の微生物が増えることにより肌が荒れたり、ニキビができたり、真菌症になって、カンジダ症やインキンタムシになることもあります。
抗生剤を長期間投与し続けることにより、身体の中で抗生剤の効かない耐性菌が増えてしまい、将来、何らかの感染症を起こし、本当に抗生剤治療が必要になったときに、抗生剤が効かない身体になっていることもあります。
健康保険で必要のない抗生剤を投与しても、患者様にとっては百害あって一利なしであり、得をするのは病院と製薬会社だけです。
とはいえ、日本には薬神話というものがあり、患者様が病院に行けば、医者が薬を出してくれるのが習慣であり、薬を出さないで正しいことをする医者が少数派になってしまうのが現状です。
医者や看護師などの医療従事者達も、常に勉強して新しい知識を頭に入れ、何が正しくて何が間違っているか理屈でものを考える頭の人は、必要でない抗生剤を処方しないことを理解しますが、理屈でものを考えないで、昔から習慣的にやっていることや周りの人達がやっていることが正しいとだけ考えている頭の人は、今だに術後の抗生剤投与は絶対に必要だと考えています。
もし、美容整形手術の術後の抗生剤を処方しないと、患者様によっては、
「なんでここのクリニックでは術後に抗生剤を出してくれないのですか!?」
「○○クリニックで手術したときは術後に抗生剤を出してくれたのに、なんでここのクリニックでは出してくれないのですか!?」
「術後に抗生剤も出さないなんて、酷い扱いですね!」
と、怒ってしまう患者も多くいらっしゃると思います。
そのため、高須クリニックでは術後に最低限の抗生剤を処方しておりますが、もしも抗生剤を飲むことを望まない患者様がいらっしゃれば、医師にお伝えください。
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